大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岐阜地方裁判所 昭和39年(ワ)325号 判決

原告 村瀬宮男 外一六名

被告 中村幸夫

主文

一、被告は原告村瀬さだに対し別紙第二目録記載の機械を運転してはならない。

二、被告は原告村瀬さだに対し、右のほか、その音響が別紙第一目録記載の機械より生ずるものを超え、且つ同人所有の肩書住所地所在の家屋の南縁側(別紙図面〈4〉)において聴取される音量が五五ホンを超える音響を発生すべきブロツクマシンを運転してはならない。

三、被告は昭和三八年一二月二一日以降第一項の機械の運転を停止するに至る迄一ケ月につき、原告村瀬宮男に対し金三千円、同村瀬きくゑに対し金三千円、同村瀬太郎に対し金千円、同村瀬善一に対し金千円、同村瀬さだに対し金七千円、同村瀬松次郎に対し金二千円、同村瀬芳男に対し金千円、同村瀬数子に対し金千円、同村瀬智子に対し金五百円、同村瀬寧男に対し金五百円、同村瀬春男に対し金五百円の各割合による金銭を支払え。

四、原告等のその余の請求はいずれも之を棄却する。

五、訴訟費用は、原告村瀬宮男、同村瀬きくゑ、同村瀬太郎、同村瀬善一、同村瀬さだと被告との間では之を三分し、その一を右各原告の負担、その二を被告の負担とし、原告村瀬松次郎、同村瀬芳男、同村瀬数子、同村瀬智子、同村瀬寧男、同村瀬春男と被告との間では之を三分し、その二を右各原告等の負担、その一を被告の負担とし、原告村瀬瀧雄、同村瀬君子、同村瀬勝吾、同村瀬恵子、同村瀬澄雄、同村瀬瀧子と被告との間では右各原告等の負担とする。

六、この判決は、原告村瀬さだが金三〇万円の担保を供するときは第一項につき、又第三項につき無担保で、それぞれ仮に執行することができる。

事実

(当事者の申立)

第一、原告等

一、被告は岐阜市西野二、八〇二番、宅地八四二、九七平方米(二五五坪)内のブロツク製造工場において別紙第一目録記載以外の機械を使用してはならない。

二、被告は別紙第二目録記載の機械の使用を停止せよ。

三、被告は前記工場内においては昼間五〇ホン、夜間四五ホンの音量を超えるブロツク製造機械を新たに設置してはならない。

四、被告は原告等に対し昭和三八年一二月二〇日以降本判決執行終了迄一ケ月金一万円の慰藉料を支払え。

五、訴訟費用は被告の負担とする。

右判決及び仮執行の宣言を求める。

第二、被告

「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求める。

(当事者の主張)

第一、原告等の請求原因

一、原告村瀬さだはその所有の肩書住所地所在の土地に在る同人所有の家屋に居住し、同村瀬宮男はその子、同村瀬きくゑは宮男の妻、同村瀬太郎は宮男の二男、同村瀬善一はその三男であつて、いずれも同一家屋において同居生活を営んでいる。

原告村瀬松次郎は肩書住所地に土地、家屋を所有し、右家屋に、同村瀬芳男(四男)、同村瀬数子(芳男の妻)、同村瀬智子(芳男の長女)、同村瀬寧男(芳男の長男)、同村瀬春男(芳男の二男)と共に同居生活を営んでいる。

原告村瀬瀧雄は肩書地所在の土地、家屋を所有し、同村瀬君子(妻)、同村瀬勝吾(長男)、同村瀬恵子(長女)、同村瀬澄雄(二男)、同村瀬瀧子(二女)と共に右家屋において同居生活を営んでいる。

二、(一) 被告は原告等居住の肩書地に隣接する岐阜市字西野二、八〇二番地所在の工場において別紙第一、第二目録記載の機械を使用しコンクリートブロツクの製造を業とする者である。

(二) 被告は昭和三五年五月頃から事業を開始し、当初は第一目録記載の機械を使用していたが、之より発生する騒音と震動に近隣の者が迷惑を受け、その防止装置の設置等に関して紛議を生じたので、原告宮男は昭和三八年六月一四日岐卓簡易裁判所に騒音震動防止の施設を求めて被告に対する調停を申立てたところ、同年一〇月七日両者の間に次の条項による調停が成立した。

一、被告は原告宮男に対する騒音震動防止等として、昭和三八年一一月一五日迄にその所有に係る岐阜市字西野二、八〇二番地に建在の平家建工場のトタン屋根の部分に鉄アングルを以て雪止り設備をする。

二、原告宮男は右工事完了した時は、爾後状況に変化のない限り被告に対し騒音震動防止等につき何等請求をしないこと。

三、右調停条項は、被告に対し現状維持を要求すると共に、原告宮男には現状の忍容義務を定めたものである。

しかるに調停成立後の同年一二月二〇日に至り、被告は却つて電動機四台を九台に増加し、一四馬力をその二倍半の三五馬力に増し、調停成立当時のブロツクマシン中型二台に加えて大型一台を増設し、毎日午前八時半頃から午後五時頃迄休憩と食事の時間のほかは間断なく作業を継続するようになつた。のみならず昭和四〇年一〇月下旬右大型機械が運転禁止の仮処分を受けるや、同年一二月之を取外して同型の他の機械を据付けて引続き之を運転し、仮処分の趣旨を没却して原告等の平穏な生活を妨害しつつあるのである。

四、右操業の際の右機械の運転に伴う音響と震動により、隣接地に居住する原告等は終日悩まされているが、被告の工場から約一〇米を距てる原告宮男等居住家屋の縁側で、コツプ内の水は波状を呈し、又家屋南側の庭に在る石燈籠は震動によつて倒れるという有様であつて、原告等居住家屋の各場所において、右機械の発する音響と震動は、社会協同生活上忍容すべき限度を超え、原告等の人間として享有し得べき平穏な社会生活を妨害し、精神の平安、肉体の健康に著しい悪影響を与えているのである。

五、原告宮男は農業を営み、同きくゑは主婦、同太郎、同善一は学生、同さだは老令で終日家で起居するもの、

原告松次郎は老令で終日家屋内で起居しており、同芳男は農業に従事し、同数子は主婦、同智子、同寧男は生徒で勉学中のもの、同春男は幼少で発育期にあるもの、

原告瀧雄は、農業を営み、同君子は主婦、同勝吾、同恵子、同澄雄、同瀧子は会社員又は勉学中のものである。

六、被告の操業に伴う騒音と震動とは永続的のものであつて、原告等は到底之を耐え忍ぶことはできないのであるが、それぞれその所有の土地に家屋を築造し、家族として之を利用し平安に居住する権利を有するものである。しかるに被告は社会協同生活における義務に違反し、忍容の限度を超える騒音、震動を発生させて原告等の平安な生活を妨害しているので、その侵害行為の禁止及びその予防を請求し得るものである。

七、のみならず被告の原告等に対する生活妨害は不法行為となるから、被告が調停により定められた義務に違反し、大型ブロツクマシンを増設した昭和三八年一二月二〇日以降その停止に至る迄原告等各自に対し一ケ月金一万円の割合による慰藉料の支払を求める次第である。

第二、被告の答弁

一、原告等主張の一、の事実中原告村瀬さだ、同村瀬松次郎、同村瀬瀧雄が肩書地にそれぞれ土地、家屋を所有し之に居住することは認めるがその他は不知。

二、同二、(一)の事実は認める。

同二、(二)の事実中当初は別紙第一目録記載の機械を使用していたこと、原告等主張の日に原告宮男と被告との間にその主張の条項による調停が成立したことは認める。

三、同三、の事実中調停の趣旨は否認する。

大型ブロツクマシンを一台増設したことは認めるが、機械を稼動させるのは午前一〇時から午後五時迄であるし、又ブロツクマシンを三台共同時に稼動させることは、作業人員の不足もあり、設備上、作業上不可能である。又昭和四〇年一二月右大型機械を現在の別紙第二目録記載のブロツクマシンに取替えたことは認めるが、それは性能は勝れているけれども、震動及び音響は同第一目録記載の中、小の機械と同程度である。

四、同四、の事実は否認する。

五、同五、の事実は不知。

六、同六、の事実中原告等がその主張の土地、家屋に居住、之を利用していることは認めるが、その他は否認する。

七、同七、の主張は之を争う。

第三、被告の抗弁

一、被告の生産しているコンクリートブロツクは建材として構造体に使用されることが多く、その為規格検査が厳格となつたので、その規格に合格する製品をより安価により多く生産するよう能率を上げ、製品の品質向上とコストダウンを計ることは、社会的要請でもあり、企業家としても当然の事で、被告も右要請に添う必要に迫られて大型機械を新設したのである。

二、右機械を設置するについては、被告は細心の注意を払つて騒音、震動の防止の措置を講じている。

(1)  基礎工事として、通常は深さ八〇糎で足るのに、その倍の一六〇糎のコンクリート基礎を打ち、その周囲に約一〇糎の巾で緩衝地帯を設け、震動の伝達を和げるように留意した。

(2)  機械の下部全体に亘りゴムパツキングを敷き、基礎に伝わる震動を和げた。この為機械が土台に密着しないので、屡々ベアリングが飛び、その修理の為多額の費用を要しているし、又能率の低下、品質の低下を避けられない状態である。

三、被告の操業する機械の発生する音響、震動は決して通常人の社会生活上要求される「受忍限度」を超えるものではないから違法性を有しない。すなわち被告は多額の資本を投下してブロツク製造業を営み、それが被告の家族や従業員の家族の生活の基礎を為しているのであつて、斯様な企業経営上の利益と市民生活の静穏との利益衡量の調和において右の限界を判定すべきものであるところ、被告は前記のように相当の費用を投じて音響や震動の影響を最小限度に止めるよう種々の施策を為し、機械も改良されたものに取替えている。のみならず騒音等が発生するのは作業時間中のみであつて、その時間は原告等は大概外出中でさしたる影響を受ける筈はなく、又昼間は附近の騒音が既に相当のものであるから、原告等の感じる騒音は機械の音響のみにその責を帰すべきものでもない。斯様な事情を考慮するならば、被告の企業の崩壊を齎すような機械の運転禁止等を求める原告の請求は失当である。

(証拠)〈省略〉

理由

第一、原告村瀬さだ、同村瀬松次郎、同村瀬瀧雄が各々その肩書住所地に在る各土地、家屋を所有し、之に居住していること及び被告が隣接の岐阜市字西野二、八〇二番地所在の工場で別紙第一、第二目録記載の機械を使用してコンクリートブロツクの製造を営んでいることは争いがない。

第二、先ず原告さだの騒音等の妨害排除及び予防の請求について判断する。

一、原告村瀬宮男本人の供述、検証(第一、二回)の結果その他弁論の全趣旨を総合すれば、原告さだの所有居住する土地、家屋は被告所有のコンクリートブロツク製造工場の北側に隣接し、その周辺の地域は農村であつたものが近年逐次住宅地として発展しつつある閑静な場所(岐阜市の用途地域制により住宅地域に指定されている)であり、工場は被告の本件工場が昭和三五年に始めて設けられた唯一のものであることが認められる。

二、右証拠のほか村瀬宮男の供述により成立を認め得る甲第一号証成立に争いない甲第二号証、各鑑定人の鑑定結果、証人上田半十郎の証言を総合すると次の事実が認められる。

被告は昭和三五年七月頃から右工場でブロツク製造を始め、その頃から昭和三八年頃迄は別紙第一目録記載の機械を使用していたが、同年六月一四日原告宮男から被告に対し騒音、震動の防止に必要な設備の施行を求めて調停を申立た結果、同年一〇月七日原告等主張の如き条項による調停が成立した(調停成立の事実は争いがない)。その後被告は同年一二月二〇日頃に別紙第三目録記載のブロツクマシン一基を右工場内に増設したが、作業中に発生するその騒音と震動は甚だしく増大して、原告さだ所有家屋内における音量は六五乃至八〇ホンに達し、又震動の為コツプの水は波紋を生じ、家の南側の庭に在る雪見燈籠が倒れる等の事があつた。よつて原告宮男は昭和四〇年一〇月下旬右第三目録記載のブロツクマシンの運転禁止の仮処分命令を得て之を執行したところ、同年一二月に至り被告は右の機械を別紙第二目録記載の機械に取替えて之を運転するに至つた(右事実は当裁判所に顕著である)。そして被告は常時右機械と別紙第一目録(一)の機械とを運転しているが、之により発生する震動は従前のものに較べて稍々減少しているとは云え、住宅地としては許容値を超えており、その音響は、右機械の操作中機関銃発射音の様な金属的高音が五秒乃至七秒間継続するもので、日曜、祭日を除いて毎日午前一〇時から午後五時迄右音響が断続し、その音量は家屋北の縁側で五〇ホン、その他の各箇所において五五乃至六七ホンに達するのである。

三、被告は右音響及び震動が一般人の社会生活において受忍すべき限度を超えないから違法性を有しないと主張するので之を検討する。

(一)  証人竹下豊の証言によりその成立を認め得る乙第二号証の一乃至四、第四乃至第六号証、検証(第一、二回)の結果、証人上田半十郎、竹下豊の各証言によれば、コンクリートブロツクは建築材料として漸次重要性を増しているので、製造業者の組合が通産局の認可を得て製品を検査し、不合格品の出荷を停止する等の措置が執られることとなつたので、その品質の向上をはかり、又能率を増進して生産性を高める為にも新しい良い機械を入れる必要があること、そして被告が本件工場に大型ブロツクマシンを据付けるについては、被告主張の如く深く、基礎工事をしたり、機械の下にゴムパツキングを敷いたりして震動を防止する為の措置を講じ、或は工場と原告さだの宅地との境界に高さ二・八米のブロツク壁を設ける等して音響を遮蔽する施設をしていることが認められる。

(二)  他方原告宮男と被告との間に成立した前記調停は、その第一項として、被告に本件工場のトタン屋根の部分に鉄アングルを設ける義務を課すると共に、第二項において、それが完成した場合、爾後の状況に変化のない限り原告宮男は被告に対し騒音、震動等の防止について何等の請求をしないこと、即ち現状を維持する限り之を認容すべき義務を認めたものであるが、かような条項により調停が成立したことは、原告宮男において、被告が之以上の騒音、震動を発生させないであろうことを信頼し、不満乍らもこの程度で我慢するということで一応解決したのであつて、その当時の音響、震動を今後増大させないということは、当事者間に暗黙に了解されていたものと認めるのが相当である。

(三)  以上認定の事実と井上、池谷両鑑定人の鑑定結果によつて考察する。

(1)  被告は平生より別紙第一目録(一)と同第二目録の機械を運転して操業しているが、原告さだの家屋において聴収される音響は、各箇所の殆んどにおいて、其処に生活する者に対する情緒的影響(いらいらして落着かなくなる)のみならず生活障害(読書や思考が妨害される)、身体的影響(頭重、消化器症状、疲れ易くなる等)の存在し得ることは明かであり、又同原告宅の殆んどすべての場所で震動を感じ、特に南側縁先において著しい。

(2)  或る土地の特定の利用方法が、その地域の他の人々の一般的利用方法と相容れない場合には、右土地に隣接する地域を他の一般的目的に利用することを不適当ならしめることがある。そこで、諸々の、それ自体は社会的に有用な土地の利用方法が互に衝突する場合、それを調節する為には、それぞれの利用目的に応じて、互に両立しない利用方法を地域的に分離することが公共的見地から必要となる。かくして本件におけるように、原告等の居住する地域が閑静な住宅地である場合、近辺での唯一の工場である被告の工場の存在は、周辺の地域の一般的利用方法と相容れないものであつて、たとえ被告の企業利益を増大し、生産性の向上をはかる必要の為めとは云え、機械の増設によりその発生する音響や震動を増加することは、周辺の地域の一般的利用方法を害することとなり、公益上も許容するに価しないのである。

(3)  尤も被告がそれ相当の経費を投じて騒音、震動の影響を防止する為ある程度の施策を講じていることは前認定の通りであるけれども、しかもその操業する機械の発生する騒音と震動は前記のように重大な悪影響を他に及ぼしているのであつて、住居地域において愛知県公害防止条例により知事が改善命令を発し得る騒音基準が五五ホン(午前八時より午後八時迄)であること、原告さだの住宅のすべての箇所において震動を感じること、及び調停成立により解決したとの信頼に反して被告が大型機械を増設し、音響、震動を増大させたこと等の事実に鑑みれば、被告工場の発生させる音響と震動とは原告さだの受忍すべき限度を超える違法のものといわねばならない。

四、原告さだは被告所有の工場に隣接する肩書地に土地及び家屋を所有して之を利用し平穏な社会生活を営んでいたところ、被告の工場の機械の運転より発生する右の違法な音響、震動により前記の如くその生活を妨害されているのであるが、右は原告さだの右土地及び家屋の所有権に基くその利用の権能の円満な行使を違法に侵害するものというべきであり、従つて同原告は所有権に基き右妨害の排除を請求し得べきである。

そして右違法な侵害は主として別紙第二目録記載のブロツクマシンの運転により生ずる音響と震動によるものであるから、原告さだは被告に対し右機械の運転禁止を請求し得るのである。

次に妨害予防の請求につき検討するに、昭和四〇年一〇月下旬、当時設置されていた別紙第三目録記載の機械の運転禁止の仮処分を執行されるや、被告は之を同第二目録記載のブロツクマシンに取替えて操業を継続し、依然として騒音、震動を発生させて原告さだの生活を妨害している事実に鑑みれば、その運転が禁止された場合も、更に別の機械によつて同様の侵害を継続する可能性が極めて大きいといわねばならない。よつて原告さだは右妨害の予防を請求し得るものというべく、この場合、別紙第一目録記載の機械の運転は、既に昭和三八年一〇月七日成立した調停において原告さだの同居の親族である同宮男が之を認容しているので、右機械によるものを超える音響を発生し、且つその所有家屋の南縁側で聴取される音量が住居地域における認容の基準とすべき五五ホンを超える音響を発生すべきブロツクマシンの運転は、原告さだにおいて予めその禁止を請求し得るというべきである。

同原告は右のほか別紙第一目録記載の機械以外の機械の使用禁止を請求しているけれども、かような包括的、一般的な不作為を求める請求は之を認め得る根拠がないので排斥すべきである。

第三、原告宮男、同きくゑ、同太郎、同善一の騒音等の妨害排除及び予防の請求について判断するに、右原告等はいずれも原告さだと世帯を同じくし、その所有する家屋に居住して同原告所有の土地を共に利用しているものであり、その利用の権能は同原告の右土地、家屋の所有権に基く利用権に従属するものであつて、之と別個独立の権原に基くものというを得ないから、同原告と別個独立に被告に対し妨害の排除又は予防を請求し得ないものというべきである。

第四、原告松次郎、同芳男、同数子、同智子、同寧男、同春男の騒音等の妨害排除及び予防の請求について検討する。原告松次郎が肩書住所地に土地、家屋を所有し、右家屋に居住していることは争いがない。

井上、池谷両鑑定人の鑑定結果によれば、被告工場の機械運転の際右家屋の西側四畳間(別紙図面13)において聴取される音量は七一ホンに達しているが、同家屋の座敷(同図面14)では五一ホン、勝手場(同図面15)では四二ホン、土間(同図面16)では五〇ホンであること、従つて住居地域における騒音規制基準を超えるのは西側四畳間のみであること、震動の影響はそれ程大きなものでないこと、等の事実が認められる。

そうすると、前記認定の如き事情(理由第二、三、(一))の下においては、同原告が被告の側の多大の犠牲においてその機械の運転禁止を求める根拠は十分でなく、その請求を認めることができない。

従つて同原告と同一家屋に居住する原告芳男、同数子、同智子、同寧男、同春男の本件騒音等に対する妨害排除及び予防の請求も亦之を認めることはできない。

第五、原告瀧雄、同君子、同勝吾、同恵子、同澄雄、同瀧子の騒音等の妨害排除及び予防の請求につき検討するに、井上、池谷両鑑定人の鑑定結果によれば、被告工場の機械運転中原告瀧雄所有家屋の南側庭先において聴取される音量は、別紙図面8で五〇ホン、同図面12で四四ホンであり、又震動については特に問題とする程の影響がないことが認められるのであつて、この程度のものは一般の社会生活上忍容すべき限度内であり、之を違法な侵害というに足らないものというべきである。

よつて右家屋の所有者たる原告瀧雄及びその同居家族である右原告等の被告に対する右機械の運転禁止等を求める妨害排除及び予防の各請求は之を認めることができない。

第六、原告等の被告に対する損害賠償請求について判断する。

一、前認定のように原告さだの家屋及び庭先における騒音、震動は一般人の日常生活において認容し得る限界を超える違法なものであるが、この件については既に昭和三八年同原告の同居の親族たる同宮男との間に紛議を生じ、調停により一旦解決した後被告が更に同年一二月二〇日頃別紙第三目録記載の機械を増設した事から再び問題となり、本訴に発展したのであるが、その運転により原告さだ及び同居の親族の生活に妨害を及ぼすことは被告において十分認識し得たものと認めるのが相当であつて、被告は過失により右原告等の生活上の利益を侵害したものというべきである。

かような生活利益の侵害は同原告等各個の人格権を侵害するものであつて不法行為となるのであるが、以下同原告等の各人について慰藉料請求をなし得る金額について検討を進める。

原告宮男本人の供述によれば、同原告は農業に従事する者であつて、昼間その家屋に居住するのは年間を通じて約三分の一であること、同きくゑは主婦であり農業を手伝うほかは多く家庭内に住むこと、同太郎、同善一は学生であつて昼間は殆んど通学の為不在であること、同さだは老令で殆んど終日家屋内で起居していることが認められる。よつて右原告等の請求し得る慰藉料の額は、一ケ月につき原告宮男、同きくゑにつき各金三千円、同太郎、同善一につき各金千円、同さだにつき金七千円を相当と認める。

二、次に被告の機械の運転の際原告松次郎所有の家屋において聴取される音量は、西側四畳間において七一ホンに達するが、他の場所では四二乃至五一ホンであることは前認定の通りであつて、なお原告宮男本人の供述によれば、原告松次郎は老令で終日家屋内に起居し、同芳男は農業と日雇に従事し、同数子は主婦、同智子、同寧男、同春男は生徒で通学中のものであることが認められる。かような事情を斟酌し、右原告等の請求し得る慰藉料の額は、一ケ月につき原告松次郎につき金二千円、同芳男、同数子につき各金千円、同智子、同寧男、同春男につき各金五百円を相当と認める。

尚被告は、右原告等の、別紙第二目録記載の機械の運転を停止され度い旨の度重なる要請を無視して操業を続け、騒音、震動を発生して違法に同原告等の生活を妨害していることは明らかであり、更に将来に亘つて右機械の運転を続けて右原告等の生活を妨害する惧れが認められるので、本件はその運転を停止するに至る迄の将来の損害金の支払を予じめ請求をする必要ある場合に該当する。

三、なお原告瀧雄所有の家屋南側庭先において聴取される音量が四四ホン乃至五〇ホンであることは前認定の通りであるが、この程度の音響は特に違法な侵害ということを得ず、又震動も格別大きな影響を与えるものでないことは前認定の如くであるから、原告瀧雄及びその同居家族である同君子、同勝吾、同恵子、同澄雄、同瀧子の被告に対する損害賠償の請求は之を認めることができない。

第七、結論

よつて原告等の本訴請求は、原告さだの、別紙第二目録記載の機械の運転禁止、主文第二項記載の如きブロツクマシンの運転禁止、被告が右機械を工場内に設置して運転を開始した翌日と認められる昭和三八年一二月二一日以降右機械の運転を停止するに至る迄一ケ月金七千円の割合による損害金の支払を求める部分に限り正当であり、又一ケ月について、原告宮男、同きくゑは各金三千円、同太郎、同善一は同じく各金千円、同松次郎は金二千円、同芳男、同数子は各金千円、同智子、同寧男、同春男は各金五百円の割合による金銭の支払を、いずれも右機械の運転停止に至る迄請求する限度において正当であるから之を認容し、原告等のその余の請求はすべて理由がないから之を棄却することとし、主文の通り判決する。

(裁判官 小西高秀)

第一目録

(一) 三馬力富士式ブロツクマシン(製造番号一八六型式一五〇) 一基

右付属設備

(一) 振動機用三馬力電動機 一基

(二) 油圧ポンプ用二馬力電動機 一基

(二) 三馬力富士式ブロツクマシンF2型(製造番号二〇二) 一基

右付属設備

三馬力電動機 一基

(三) 七、五馬力硬練用ミキサー 一基

第二目録

一、富士機械工業株式会社製富士式ブロツクマシン 一基

(製造番号二四一型式二〇〇型T三、六F五〇)

第三目録

一、有限会社不二設計所製

F3六二〇四三号コンクリートブロツクマシン 一基

図面〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例